作物や家畜、水産物の品種改良において、「育種」「遺伝子組替」「ゲノム編集」などの言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。しかしながら、これらの言葉の違いって、少しわかりにくいですよね。
一応、僕は大学院の頃、生物の研究をしてきました。この記事では、「育種」「遺伝子組替」「ゲノム編集」とは何か? それらの違いは?などをまとめてみました。かなりブランクがありますので間違いがありましたら指摘くださるとうれしいです(笑)。
育種とは
育種とは選抜と交雑を繰り返し、より優秀な品種を作出することです。
例えば以下のような例があります。
稲:良い品種の物を交配させてより良い品種を作出する
魚:成長が早いニジマスと病気に強いニジマスを交配させ、成長が早くて病気に強いニジマスを作出する
など。
この手法は交雑可能で子孫がとれることが条件で適用できる手法です。育種は染色体操作が伴わ「ない」ことが重要です。以降の「遺伝子組み換え」や「ゲノム操作」は遺伝子組み換えが伴います。プードルとチワワのミックス犬もある意味で、育種と言うことができるかもしれません。この育種はバイオテクロジーが発展する前から行われてきた手法です。
遺伝子組み換え
ここから先はいわゆるバイオテクノロジーの領域です。
「遺伝子組み換え技術」はPCR技術および遺伝子解析技術(DNAシーケンサ)の発展に伴い盛んになりました。
PCRと遺伝子解析技術
PCR技術とは「遺伝子を増やす技術」です。高温でも機能が失われないDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)が発見されて以降、盛んになりました。
DNAは95℃で2本鎖から1本鎖に分かれます。そして、55℃でプライマー(DNAの鋳型、型)が1本鎖のDNAにくっつきます。そして72℃でプライマーを起点にDNAが合成されます。
この特性を利用して、
①95℃(DNAを2本鎖から1本鎖にして) ⇒ ②55℃(プライマーをくっつけ) ⇒ ③72℃(DNAを合成する)
この①~③を繰り返すことでDNAがどんどん沢山合成されていきます。
DNAポリメラーゼはDNAを合成する際に必要ですが、95℃まで上げると失活(機能を失う)ため、DNAの合成を人工的に行うことは困難でした。しかし、高温でも失活しないDNAポリメラーゼの発見により、PCR技術が進歩していきました。
遺伝子解析技術はPCR法を応用したものです、この技術により遺伝子の配列が解読できるようになりました。原理はちょっと難しいですが、①PCRの最中に遺伝子の合成を途中で止める、②止まった場所に遺伝子を解読可能な標識がついている、③この標識を遺伝子の長さごとに解読することで、遺伝子全体を解読する。という流れです。
この二つの技術により遺伝子を増やす、解読するということが容易にできるようになってきました。解読が出来るようになると、どの遺伝子の配列がどんな機能があるかだんだん研究が進んでいくようになりました。この結果、どんな遺伝子を組み込んでやれば、品種が改良できるかが容易に分かるようになってきました。
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遺伝子組み換えとは
組み換えて品種改良したい相手に、与えたい機能の遺伝子を組み込むことです。
こうすることで、目標の性質や機能を与えることができ、品種改良が可能です。
しかし、遺伝子組み換えには以下のような問題点があります。
- 遺伝子を組み込む側の染色体のどこに遺伝子を組み込むかが選べない
- 遺伝子を組み込む側の染色体に何個(何コピー)の遺伝子を組み込むか選べない
このため、予期せぬ位置に遺伝子が組み込まれると、遺伝子の組み換え自体には成功しても、その生き物の生育に必要な重要な遺伝子の邪魔をしてしまったりすることがありました。
このデメリットを解消したのがゲノム編集です。
ゲノム編集とは
ゲノム編集は遺伝子組み換えと違って「位置を指定して遺伝子を操作する」ことができます。この技術は僕が学生の頃にはあまり使われていなかった新しい技術です(名前を気っくようになったのは2010年以降くらいからでしょうか)。
特定の位置(狙った位置)でDNAを切断可能なDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)を利用することで、狙ったDNAを破壊したり、狙った位置にDNAを挿入できるようになりました。
これにより、遺伝子組み換えのデメリットを排除したゲノム操作が可能になりました。こうすることでおぼ思惑通りのゲノム操作が出来るようになりました。
いま、非常に注目されている技術です。
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遺伝子を組み替えた品種が自然界で勝手に繁殖すると困るので・・・
遺伝子組み換えを行った品種が自然界で勝手に繁殖して、増えてしまうと生態系に悪影響を与えてしまう可能性があります、例えば、病気に強く成長が早い魚を遺伝子組み換えで作出したとします。気がついたら、海がその魚だらけになってしまい、他の品種が生き残れなかったら困りますよね・・・。
それを防止するために、
- 組み換えた品種が物理的に外に出ないようにする
- 子孫をつくれないようにする(子孫が作れない三倍体個体とする)
などの対策をとります。三倍体個体については、ここの説明が分かりやすいです、参考にしてください。
問題点
このように、遺伝子操作により作物、家畜、魚などを改良する研究はかなり進んできています。しかしながら、実際にはほとんど世の中に出回っていません。その理由として以下のものが挙げられます。
- 消費者が遺伝子組み換えに対してネガティブな印象をもつ(抵抗感をもつ)
- 遺伝子組み換え食品の認可までの流れが、上手くルール化されていない
- 審査(FDA審査)に時間とコストがかかる
いろいろな課題はありますが、私たちはこのような遺伝子操作技術とうまく付き合っていくことが大切だと思います。技術と言うのは、どんなものでも諸刃の剣です。上手く付き合っていくことが大切です。そのために、僕たち技術士は頑張らなくちゃと思っています!!
コメント
こんにちは。
ある有名な方が仰っていた話なのですが自然界でも普通に遺伝子組み換えはおきていると話をされていて疑問に思い調べていてこちらのサイトを拝見させていただきました。
個人的には育種的な事は起こるとは思うのですが自然界で全くゼロとは思いませんが遺伝子組み換えは起こりえるのでしょうか?
ど素人の質問で恐縮ではありますが、わかる範囲で宜しくお願いいたします。
そうですね。ウイルス遺伝子の運搬役になって自然に遺伝子交換が起こっているみたいなので論文は昔からたくさんありますよ。
論文となるとなると素人には理解は難しそうですね、ありがとうございました。