とにかく理屈で「生産を効率化」すればよいと言う訳ではないでしょ! -「ホーソン実験」から考える –

僕は経営工学部門の技術士です。

特に僕は工学的なアプローチで生産性を上げようとすることが多いです。

そのためには、現状の問題点を見つけたり、仕事のやり方の悪いところを探したりすることがどうしても多くなります。

例えば、生産現場の生産性の改善を図ろうとしようとします(IE手法など)。

そうすると、現場の作業を観察したり分析したりすることが必要になります。例えば、以下のような調査をすることがあります。

  • ある作業にどれだけ時間がかかっているか
  • 作業者によって作業時間にばらつきはあるか
  • ギルブレスの「動作経済の原則」に基づいて作業できているか
  • 作業者の歩行数はどれくらいか
  • 作業準備にどれくらい時間がかかっているか?
  • 設備の稼働率はどれくらいか・・・・

など。中には作業をカメラで撮影、作業者に小型カメラを装着してもらう、万歩計を付けてもらう・・・等を行うこともあります。

こういう調査をするのは僕もあまり得意ではありません。

というのも、「調査される側」は以下のような気持になるからです。

  • 作業を監視されている!やりづらい!
  • どうせ「悪いところを直せ!」と言われるのだろうな
  • そんな調査して「理屈で改善しようとしても」何も改善されないよ!

このような気持ちになってしなうのは仕方がないと思います。確かに、僕だって同じことをされるとそういう気持ちになると思います。では、どのように仕事を進めていけばよいのでしょうか?

確かに、理屈だけで改善できるわけではないことを専門家が一番分かっている

確かに理屈や理論だけで生産性が向上するわけはありません。

経営工学(生産管理)の分野でもそれを示唆している実験があります。

それが、「ホーソンの実験」です。

1924年から1932年にかけて、ウェスタン・エレクトリック社のシカゴにあるホーソン工場で行われた一連の実験・調査をホーソン実験と呼ぶ。一連の実験・調査は、照明実験、継電器組立実験、面接調査、バンク巻線作業観察の4つに区分できる(生産管理用語辞典より)。

この実験はいくら経営工学的アプローチで生産性を改善しようとしても、それには限界があることを示唆しています。

どんな実験をしたの? どんな結果が出たの?

ホーソン実験中でもっとも有名なものは、

「工場内の照明と作業能率」の関係を調査した実験です。

この実験では、照明の明るさを4段階で変化させて生産性変化があるか調べました。当然、「照明が暗いほうが作業性が悪い」と言う仮説を立てていました。でも、実際にはその通りにならなかったんです

それで次に、その他の様々な条件が生産性に影響を与えるか調査しました。

  • 賃金の支払い方法
  • 作業時間と休憩時間
  • ランチの支給
  • 監督方式の変更・・・などなど

そして、結果的に以下のような結論が出ています。

ホーソン実験は、生産能率は作業の物理条件や作業時間、賃金形態などよりも、作業、同僚、監督者などに対して抱く態度や感情の影響を受けやすこと、態度や感情が人間関係と密接に関連することを示唆した。

生産管理用語辞典より)

そうなんですよね。

いくら頑張って、理屈で改善しても結局、「人間関係など人の感情的な部分で」生産性は大きく変化してしまうんですね!

ですから経営工学的なアプローチで改善しても、人の感情的な問題で結果的に効果が出ない!とうことは僕たちの分野では珍しいことではありません。

だからと言って「理屈が不要」とはならない

だからと言って、「理屈で改善すること」「工学的アプローチで改善すること」に全く意味がない!と結論する事は乱暴です。

理屈をわかっていない現場管理は本当に危険です。

例えば、全く分かっていない管理者が「とにかく生産数を増やそう!」としてしまったとします。そうなると、「材料在庫」「仕掛在庫」「完成品在庫」を持ちすぎてしまうかもしれません。こうなるとキャッシュフロー(CF)が悪化してしまいます。不適切な設備投資や人員過多により、経営破たんに追い込んでしまうかもしれません。

ですから理屈は絶対に必要です。

「同じ人間関係」「精神状態」であれば理論的に効率的な方法で経営・生産したほうが良いに決まっています!

ですから、原理原則は大事にしなければなりませんね!

でも僕は「鬼」になりたいとは思っていない

しかしながら、僕は「現場の悪いところをこと細かく見つけて、直していく・・・ムダ取の鬼」みたいなやり方はやりたくありません。そういうやり方にも多少効果があります。

ですが、作業者の方が「やらされている感覚」を持ってしまったり、「細かい指示が多すぎてモチベーションが下がる」という弊害を生んでしまう可能性があります。そうなれば、先ほどのホーソン実験ではありませんが、逆に効率が下がってしまうことがあります。そんなやり方が効果が良いわけではありません。

僕は「ムダ取りの鬼」になりたいわけではありません。

もっと大局的な目線で出来ることがまずあるはずです!

細かなムダ取りをするよりも、

小さな努力で、もっと大きな効果を得られる改善を提示する

のが僕たちの仕事ではないかなと思っています。

例えば、工程分析を行って「ECRS」の原則を適用して検討すれば、その作業自体が不要になるというケースがあります。10分の作業を9分30秒に縮められる改善よりも、作業自体をなくしてしまって「0秒」にする改善の方が圧倒的に効果が大きいです。

また、非ボトルネック工程をいくら改善しても全体の生産性は全く向上しません。ボトルネック工程にターゲットを絞って改善すれば最小の努力で最大の効果を得ることが出来るでしょう(TOC理論、制約条件の理論、THE GOALを読まれることを推奨)。

まとめ

このように僕たち経営工学部門の技術士が現場に行くときには、

  • 無駄を見つけてやろう
  • いじめてやろう
  • 悪いところを指摘してやろう

なんてことは思っていません。

もっと楽していい仕事が出来る方法、解決策を提案したいと思っています。

ですから「鬼が来た」と思わずに優しい目で見てくださいね(笑)。

僕だって人の子ですし、子どもがいますからね(笑)

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