受注の仕方から生産の形態について考えてみる!! 受注生産、見込生産とは?

僕は生産管理が専門の技術士(経営工学部門)です。

新しく生産管理部門に配属された人や、生産管理の初心者の方によく説明している内容として、「受注の仕方による生産の形態の違い」という考え方があります。

この記事では、その考え方について説明してみたいなと思います。

受注生産と見込生産

受注の仕方による生産形態の違いとして、最も分かりやすいのは、以下の二つです。

  • 受注生産
  • 見込生産

これらの内容について簡単に説明します。

受注生産とは

受注生産とは「顧客が定めた仕様の製品を生産者が生産する形態」の事を指します。

特徴としては、以下のものがあげられます。

  • 受注をしてから設計を行うことが多い
  • 在庫を持たないことが基本
  • 受注変動によって、操業度に大きな変動がある
  • 船舶やビルの建設、産業機械やプラントなどにみられる生産形態
  • 受注を受けてから客先へ提供するリードタイムが遅くなる

見込生産とは

これに対して、見込生産とは「生産者が市場の需要を見越して企画・設計した製品を生産し、不特定な顧客を対象として市場に出荷する形態」の事を指します。

特徴としては、以下のものがあげられます。

  • 製品仕様を生産者側が決定する
  • マーケティング力、営業力、新製品の企画開発力が大切
  • 製品の需要予測とそれに基づいた生産計画が大切
  • どうしても在庫(仕掛)を持つことが必要になる
  • 家電、加工食品、消耗品などにみられる生産形態
  • 受注を受けてから客先へ提供するリードタイムが早い

在庫の有無と客先提供リードタイムはトレードオフの関係

上記の特徴からも分かりますように、当たり前のことですが、

  • 在庫を持っていると、受注してから客先への提供リードタイムが短くなる
  • 在庫を持っていないと、受注してから客先への提供リードタイムが長くなる

と言えます。

こう書くと、在庫を持っている方が良いように感じられるかもしれません。

しかしながら、在庫や工程内仕掛品が多いということはそれだけ、キャッシュフローが悪化します。また、それらの保管費用なども馬鹿になりません。在庫をたくさん持っているということは経営上良いこととは言えません。

ですので、在庫の有無や量とリードタイムはトレードオフの関係にあると言えます。

以下に概念図をしめします。

良いとこどりをしようとした「半見込生産」

しかしながら実際の受注・生産活動は、「受注生産」と「見込生産」に単純に分けきれないことがあります。現代では、「受注生産」と「見込生産」の間の形態である、「半見込生産」が多くあらわれるようになってきました。これは、それぞれの生産形態の良いとこどりをしようとした生産形態です。

この半見込生産とはどういうことでしょうか?

半見込生産とは、「途中までを見込生産で製造し、ある程度の形になった状態(半製品)で在庫を持っておいて、最終的には受注があった時に生産する形態」のことです。

半見込生産は一般的に、以下のように呼ばれることが多いです。

  • BTO生産 (Build To Order)
  • ATO生産 (Assemble To Order)

これらの形態では、以下の概念図に示すように、従来の「受注生産」や「見込生産」ではカバーできなかった領域を、カバーすることが出来ます。

つまり、リードタイムはそこそこ早いそして在庫もそこそこ少ない「良いとこどり」を狙える訳です。

特に有名な事例としてはDellコンピューターのBTO生産があげられます。

Dellではある程度の段階までは見込で「部品やユニット」を在庫として持っています。

しかしながら実際に最終組み立てをするのは、受注を受けてからです。

こうすることで、受注生産の在庫のリードタイムの速さ在庫の少なさの良いとこどりを狙っているわけです。

受注の仕方による生産形態の違いを整理すると・・・

受注の仕方による生産形態の違いを図で表すと以下のようになります。

なお、ここで初めて「デカップリングポイント」という言葉が出てきます。

このデカップリングポイントとは半見込生産に置いて「在庫を持つポイント」の事です。

この内容は後で詳しく説明したいと思います。

そして、一般的には「受注生産」「半見込生産」「見込生産」は、製品の種類と生産量の関係で使い分けられることが多いです。概念を以下の図で示します。

以下のように使い分けられるわけです。

多品種少量生産:受注生産

中種中量生産:半見込生産方式

少種多量生産:見込生産

デカップリングポイントをどこに持っていくかが重要!!

さらに、デカップリングポイント(在庫を持つポイント)は、

「どこに設定するか」

が非常に大切!! ということを覚えておいてください。

例として、以下を考えてみましょう。

A社は部品生産までしか「見込生産」を行いません。

B社はほぼ完成製品の手前まで「見込生産」を行います。

A社のデカップリングポイントはB社より上流側にあります。

デカップリングポイントの位置には違いがあります。

でも、A社もB社もどちらも「BTO生産をしている」と思っています。

そして、それはそれでどちらの会社も間違っていません。

どこのレベルをデカップリングポイントとするかが企業にとって重要な戦略なのです。

B社は、お客さんから注文を受けて生産するまでのリードタイムが短いです。客さんからすれば、注文すればすぐに手に入る方が良いに決まっています。でもその分、完成品に近い状態で在庫を持っているので「在庫金額」が大きくなってしまう傾向にあります。

一方、A社はB社と比較して、上流側にデカップリングポイントがあるので「在庫金額」が小さいです。しかし、注文を受けてから部品を生産したりする完全な受注生産と比べると、リードタイムは短いですよね。

在庫金額が多いということは、企業にとってキャッシュフローを悪化させてしまう大きな原因となります。また在庫を管理する費用も馬鹿になりません。

しかし、リードタイムが短いことは、企業にとっては大きな強みになります。

リードタイムが長ければ、納期が長いことになります。納期が長いためにお客様を失ってしまう、いわゆる「機会損失」の状態になってしまうことがあります。

しかし、リードタイムが短ければ、注文から短納期でお客様の手に商品を渡すことが出来ます。商品が品切れだったり、納期が長いためにお客を失う可能性が低くなります。機会損失の可能性を低くすることが出来るのです。

これを、図にすると以下のようになります。

このように在庫金額とリードタイムはトレードオフの関係にあります。

バランスをとることが大事です。

そして、各企業が戦略的にベストだと思うポイントを「デカップリングポイント」として設定しているのです。

このように「どこをデカップリングポイントとして設定するか?」は企業戦略にとって大きな意味を持つのです!!

この考え方は重要!!です。ぜひとも頭に叩き込んでおきましょう。

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